2023年9月15日
各国の金融当局は2008年のリーマン・ショック (Lehman’s collapse) の教訓を生かし、金融危機の再来を防いできた。
ただ、問題となった「大きすぎて潰 (つぶ) せない」銀行への対応では、スイス当局は今年、経営難に陥った大手クレディ・スイス (Credit Suisse Group AG) の救済に動いた。巨大金融機関の扱いは15年を経てもなお課題が残る。
リーマン・ショックの際には、金融不安の高まりから各国企業が決済に確保しようと動いてドルが不
足。
企業のドル資金繰りが大幅に悪化し、経済悪化につながった。
こうした教訓から、日米や欧州の中央銀行は金融不安が生じると協調して迅速にドルを供給。
2020年の新型コロナウイルスの感染拡大時や、今年3月の米中堅銀行の破綻 (はたん) 時に実施された。
消費者の不安をいち早く沈静化しようとする対応も強まった。
米国では3月10日にシリコンバレー銀行が破綻。
米政権は、2日後に預金の全額保護を打ち出した。
過剰な対応との批判もあったが、不安拡大を防ぐことを優先。
政権は「米国の銀行システムは2008年よりも強固だ」と繰り返した。
課題もある。リーマン・ショック時には巨大金融機関の救済に批判が高まった。
破綻すれば経済への悪影響が甚大であることが分かり、公的資金で救済せざるを得なかった。
しかし、3月に世界に30行しかない「システム上重要な銀行」の一つだったクレディ・スイスが経営難となり、スイス政府が巨額の保証を与え、世界最大のプライベートバンク UBS (UBS Group AG) による買収劇につながった。
スイスのカリン・ケラーズッター財務相は、欧州メディアに「世界的な巨大銀行を計画通りに解体することはできない」と破綻処理の難しさを吐露した。
規制外に潜むリスク、中堅破綻し非銀行に存在感
米証券大手リーマン・ブラザーズの経営破綻から9月15日で15年を迎えた。
世界的な金融危機を教訓に銀行への規制は強まり、破綻の連鎖や景気への悪影響を食い止める仕組みが作られた。
しかし、規制の網からこぼれた米中堅銀行が今年、破綻に見舞われた。
新型コロナウイルス禍の大規模な金融緩和を背景に、銀行以外の金融仲介者の存在感も増しており、隠れたリスクが燻 (くすぶ) っている。
米国では2007年頃、信用履歴が乏しく、クレジットの低い借り手を対象にした住宅ローン (subprime lending) の焦げ付きが拡大し、ローン債券を証券化した金融商品の価値が急落。
巨額損失を抱えたリーマンは2008年9月15日に破綻した。
世界的に起きた株価暴落や実体経済の不況は日本で「リーマン・ショック」と呼ばれた。
その後、大手銀を中心に厳格な自己資本規制の議論が進み、危機時の金融システムの安定が図られた。
各国の金融当局による監督も強まり、リーマン級の危機の再発リスクは軽減された。
ただ、米欧の中央銀行がコロナ禍の経済下支えのため進めた金融緩和から引き締めに舵 (かじ) を切る中、金融機関の経営環境は激変した。
米国では中堅銀3行が相次いで破綻。
特に、シリコンバレー銀行の破綻は急激な利上げにより、安全とみていた保有債券の含み損が拡大したことが要因だ。
デジタル時代の情報拡散も破綻を助長した。
米国では再び規制強化の検討が進む。
しかし、国際通貨基金 (IMF) によると、資金が流れ込んだ投資ファンドなど、ノンバンクによる融資は1兆4,000億ドル (約205兆円) 規模に拡大している。
こうした「影の銀行 (シャドーバンキング)」は規制が緩く、米金融最大手JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者 (CEO) は7月、「彼らは街で踊っている」とリスクを指摘した。
不動産不況に見舞われている中国も世界経済の波乱要因。
価格高騰を懸念した中国政府による融資規制を受け、資金繰りに窮した不動産大手の中国恒大集団に続き、今夏には碧桂園の経営難が表面化。
展開次第ではリーマン級の余波を危惧する見方もある。
(2023年10月1日号掲載)