オミクロン変異株 (Omicron Variants)(2022.9.1)

 

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dr kim new     金 一東

日本クリニック・サンディエゴ院長

日本クリニック医師。
神戸出身。岡山大学医学部卒業。同大学院を経て、横須賀米海軍病院、宇治徳洲会等を通じ日米プライマリケアを経験。
その後渡米し、コロンビア大学公衆衛生大学院を経て、エール大学関連病院で、内科・小児科合併研修を終了。スクリップス・クリニックに勤務の後、現職に。内科・小児科両専門医。


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オミクロン変異株

(Omicron Variants)

       
       

現在、世界中で、新型コロナウイルスのオミクロン株による感染が爆発的に増えています。パンデミックが宣言されて2年半たちますが、このオミクロン株による感染爆発は、これまでの変異株とは比べようがないくらいの速度と規模で広がっています。

連日20万以上の新規感染者数の報告のある日本だけでなく、おそらくそれ以上の感染者を出しているアメリカ(公式の報告では、新規感染者数は日に10数万件程度ですが、自分で行う抗原検査での結果は報告されないため、実数ははるかに多いと推測されます) でも、新たな感染爆発が起きています。

 

オミクロン株の出現

昨年11月下旬、南アフリカからWHO (世界保健機関) に新型コロナウイルスの変異株であるB.1.1.529が報告され、11月26日には、WHOが懸念すべき変異株と認定し、オミクロン株と名づけました。

12月1日には、米国で初めてのオミクロン株の感染が確認され、12月21日には、米国で最初のオミクロン株のBA.2系統が同定されました。

その後のオミクロン株の、世界中の爆発的な感染拡大が続いているのは前述した通りです。

それまで凌駕していたデルタ株とすっかり入れ替わってしまいました。

 

アメリカ国内でのオミクロン株系統、亜系の推移

アメリカでは、今年1月には、オミクロン株のBA.1系統から始まり、BA.1.1に置き換わり、その後BA.2系統が優勢になりました。

5月から6月中旬にかけて優勢だったオミクロン株のBA.2系統とBA.2.12.1の亜系は7月末までにほとんどその姿を消し、6月上旬にはまだ少数だったBA.4 系統とBA.5系統がその後、持続的に増加。

7月以降はBA.5系統が継続的に増加し、現在、コロナウイルスのほぼ100%がオミクロン株に置き換わっていますが、そのうち、9割近いオミクロン株がBA.5系統です。

BA.4系統は7月以降少なくなってきています。

少数ながら7月から増えてきたオミクロン株にBA.4.6のBA.4亜系があります。

8月20日現在で、米国で流行しているコロナウイルスはほぼ100%オミクロン株で、そのうち、BA.5が88.9%、BA.4.6が6.3%、BA.4が4.3%、BA.2.12.1が0.5%です。

オミクロン株のBA.2、BA.1.1.529、BA.1.1やB.1.617.2のデルタ株は存在しません。

 

オミクロン株の特徴

オミクロン株は、新型コロナウイルスの元々の株よりも感染力が強いデルタ株と比べても、感染力はデルタ株の3〜4倍あり、症状が出るまでの潜伏期間はデルタ株より1〜2日短いので、感染が非常に短期間に広がりやすい性質を持っています。

オミクロン株は、感染力は従来株に比べて強いのですが、症状は軽い傾向が高く、重症化は従来株よりも低いようです。

ただ、重症化率が低くても、より多くの人が感染すると、重症の人の数はあまり変わらないことになります。

オミクロン株も、それまでのアルファ株、ベーター株、デルタ株など新型コロナウイルスの一つの変異株にすぎないのですが、それまでの変異株に比べて際立った特徴があります。

それは、極めて多くの変異があるということです。

最初に報告されたオミクロン株 (BA.1) に限っても50近くの変異があり、そのうち32の変異が、ワクチンなどが攻撃の目標にするウイルスのスパイク (突起) タンパク質に関与するものなのです。

その結果、ワクチンの攻撃を避ける逃避変異を起こしやすいのです。

オミクロン株の系統と亜系

オミクロン株は最初のBA.1系統から始まり、その後、様々な系統、亜系が出現してきています。

・BA.1:オミクロン株の最初の系統。デルタ株よりウイルス増殖が70倍速いとの報告。

・BA.2:BA.1より感染力が強く、アメリカでは今年の1月から出現。

・BA.XE:BA.1とBA.2より派生 (組換え体)、BA.2より感染性が強い。

・BA.2.12:BA.2の亜系で、このBA.2.12と BA.2.12.1がある。

・BA.2.75:ケンタウロスというニックネームがついた亜系で、BA.2とBA.5 の中間のような亜系。

・BA.3:非常に珍しい系統。

・BA.4:BA.5とともにアメリカで2番目に多いオミクロン株系統。

・BA.5:現在、アメリカで一番多いオミクロン株系統。

 

オミクロン株の症状

オミクロン株の症状は、それ以前の変異株の症状を比べてみても、それほど大差はないですが、味覚や臭覚の異常が少なく、のどの痛み、咳、鼻水など、風邪症状が多いのが特徴です。

症状としては、咳、のどの痛み、鼻水、発熱、頭痛、だるさが主で、他に、悪寒、息苦しさ、体の痛み、鼻づまり、くしゃみ、嘔気、嘔吐、下痢などがあります。注意すべき症状としては、呼吸苦、胸痛や胸の苦悶感、意識障害、傾眠、サイアノーシス (皮膚などが青くなる) などがあります。

 

オミクロン株の検査と治療

オミクロン株は、それまでの新型コロナ抗原検査やRT-PCR検査で診断できます。

オミクロン株の系統によっては、従来の検査では診断できにくいという報告もありましたが、BA.5系統の現在では、ほとんど問題がありません。

オミクロン株にはモノクローナル抗体による治療はあまり効果がなく、治療の主流は抗ウイルス薬になります。

高齢者など重症化リスクのある人で、軽症から中等症のコロナ感染症に対してはパキスロビド (Paxlovid=Nirmatrelvir+Ritonavir) という抗ウイルス薬が第一選択薬になります。

それが飲めない人には、ラゲブリオ (Lagevrio=Molnupiravir) があります。

 

オミクロン株に対するワクチンの効果

オミクロン株以前のデルタ株に比べて、コロナワクチンの効果は全体的に低下していますが、入院、重症化、死亡に対する予防効果はある程度保たれているようです。

例えば、入院に対する予防効果は、2回ワクチンを受けた人のデルタ株に対する入院予防効果は88%、3回ワクチンを受けた人は94%、一方、オミクロン株に対する入院予防効果は、2回受けた人では65%、3回受けた人では86%で、特に3回受けた人での予防効果はより高いのです。

今後、免疫回避力の高いオミクロン変異株が出てくるとどうなるかは分からないですが、現在、オミクロン変異株 (BA.1をベースにして開発、BA.5にもある程度効果あり) もカバーするワクチンが開発されています。

9月から10月にかけて接種が開始される予定です。

 

オミクロン株に対する感染予防

感染の予防は、前述したように、新型コロナワクチンの追加接種を受けるのが最大の予防になります。

他には、これまで同様、濃厚接触を避ける、室内でのマスクの着用、頻回の手洗いなどです。

大勢での会食は特に感染の危険性が高いので、室内でも室外でも避けるようにしましょう。

 

オミクロン株のサーベイランス

CDC (米国疾病予防センター) は、大規模な新型コロナウイルスのゲノム解析 (遺伝情報の解析) を継続的に行ってきています。

州の保健局、公衆衛生機関、民間の検査会社、大学などと提携して、ゲノム解析を行っているわけですが、こうした大規模な変異のゲノム解析サーベイランスで、今後より多くの情報が蓄積し、変異株に対し、より適切な対策ができていくのではないかと思います。

感染が流行しているウイルスのゲノムの主要な変異をモニターすることは非常に重要なのです。

 
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(2022年9月1日号掲載)