ヒトパピローマウイルス感染症 (HPV Infection)(2020.8.1)

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dr kim new     金 一東

日本クリニック・サンディエゴ院長

日本クリニック医師。
神戸出身。岡山大学医学部卒業。同大学院を経て、横須賀米海軍病院、宇治徳洲会等を通じ日米プライマリケアを経験。
その後渡米し、コロンビア大学公衆衛生大学院を経て、エール大学関連病院で、内科・小児科合併研修を終了。スクリップス・クリニックに勤務の後、現職に。内科・小児科両専門医。


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ヒトパピローマウイルス感染症

(HPV Infection)

       
       

ヒトパピローマウイルス感染症 (以下HPV感染症) は、HPV=Human Papilloma Virus (ヒト乳頭腫ウイルス) による感染症で、主に手足のいぼ、性器いぼ、子宮頸がんなどの原因になります。

今回は、性感染症であるHPV感染症について説明します。

 

 

HPV感染症とは?

HPV感染症は、皮膚や性器との直接の接触により人から人へと感染する病気で、最も一般的な性感染症です。

ヒトパピローマウイルスには200程度の違う型があり、40以上の型のHPVが性行為を通じて感染し、性器、肛門、口、咽頭などに病変を起こします。

子宮頸がんなどの原因になるHPVは少なくとも14の型があり、特に16、18型は重要です。他に31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、68型ががんの形成に関与しています。

HPVの何種類かの型は「高リスク」群に分類され、子宮頚部、外陰部、膣、肛門、陰茎、咽頭のがんの原因になります。

「低リスク」群のHPVは、性器いぼ (尖圭コンジローム) の原因になります。

HPVに感染しても9割の人は2年以内に自然に治癒しますが、治癒するまでの間、他の人へ感染させるリスクはあります。

1割以下が持続感染になり、ウイルスが体内に残り、性器いぼ、咽頭のいぼ、子宮頚部がんなどの原因になります。

男性では、陰茎、陰嚢 (いんのう)、肛門などの性器いぼやがんの原因になります。

 

 

 

HPV感染症の現状

アメリカでは、約8000万人がHPVに感染していて、そのほとんどが10歳代後半から20歳代前半の若者です。

毎年1400万人が新たにHPVに感染すると推測されています。

毎年、女性は19400人、男性は12100人がHPVによるがんになります。

12000人が子宮頸がんと診断され、4000人が亡くなります。

毎年13500人が咽頭がん、6200人が肛門がん、3400人が会陰 (えいん)・膣がん、800人が陰茎がんになります。

HPVは肛門がんと子宮頸がんの90%、外陰がんと膣がんの70%、陰茎がんの60%の原因になっています。

女性は一生の間に何らかの型のHPVに感染する人が80%います。

アメリカの調査によると、男性の方が女性よりも4倍近く口腔HPV感染があると報告されています。

因みに日本では、子宮頸がんを罹患する女性は毎年10000人以上、死亡数は3000人程度で、子宮頸がんは患者数も死亡数も増加傾向にあります。

 

 

 

HPV感染症のリスク

性交渉の相手が多い、コンドームをしていない、他の性感染症にかかったことがある、性交渉相手の性感染症歴を知らない、若い頃から性的に活発、HIVなど免疫低下の病気がある、皮膚に損傷がある、などがリスクになります。

 

 

 

HPV感染症の症状と徴候

HPVに感染しても症状のない人が多いので、自分が感染していることを知らない人が多くいます。

性器いぼや、子宮頚がん検査の異常があれば、それによってHPV感染症の存在を知ることになります。

性器いぼは、皮膚色をした小さな突起状のものから、カリフラワー状の大きなものまで、数も形も様々です。

外陰部だけではなく、膣、肛門、子宮頚部、陰茎、陰嚢、ソケイ部、大腿などにできます。

子宮頸がん、外陰がん、肛門がん、陰茎がん、咽頭がんなどになれば、不正出血、痛み、不快感などの原因になります。

 

 

 

HPV感染症の診断

21歳以上の女性は、子宮頸がんの検査を受けることがCDCで推奨されていまが、この検査で軽度の異常細胞 (ASC-US) が出るとHPV検査を受けることになります。

HPV DNA検査によって子宮頚部のHPVの有無と、高リスク群か否かの区別を調べます。

高リスク群のHPVが出ると子宮頚部の組織検査が必要になります。

30歳以上65歳以下の女性は子宮頸がん検査の結果に関係なく5年ごとにHPVの検査を受けることになっています。

子宮頚がん検査は、子宮頚がんの検査と前がん状態の検査ですが、こうした異常の大半がHPV感染症と関係があります。

ただし、男性のHPV感染症の検査は存在しません。

 

 

 

HPV感染症の治療

HPV感染症の治療は存在しませんが、HPVの感染自体は前述したように9割近くが自然に治癒します。

また、HPV感染症によって起こされた性器いぼの治療や子宮頚部の組織異常の治療は存在します。

子宮頚がん検査は前述のようにがんだけではなく、前がん状態や異常細胞も発見します。

従って、定期的な子宮頚がん検査が大事なのです。

高度の異常細胞や、前がん状態では、レーザー治療や手術で子宮頚部を円錐状に切り取る子宮頚部円錐切除術が行われ、子宮頸がんの場合は、子宮全摘出術などが行われます。

性器いぼの治療は外用薬と外科的治療に分かれます。

外用薬としては、免疫力を高めるイミキモド、いぼの組織を破壊するポドフィリン、 ポドフィロクス、いぼを焼くトリクロロ酢酸、緑茶から抽出されたシネカテキンスがあります。

外科的治療には、液体窒素などを使った凍結療法、電気焼灼術 (しょうしゃくじゅつ) レーザー治療などがあります。

 

 

 

HPV感染症の予防

一番確実なHPV感染症の予防法は、性交渉をしないということですが、特定の相手とのみ性交渉をする方法もあります。

ただ、誰が感染しているかを知ることは困難です。

コンドームを使用してもHPV感染症が100%予防されるわけではないですが、子宮頚がんのリスクを下げます。

他のHPV感染症の予防法としてはHPVワクチンがあります。

 

<HPVワクチン>

現在、アメリカには3種類のHPVワクチンがあります。

HPVのうち16と18型の子宮頸がんを予防する2価ワクチンであるサーバリックス、16と18型に性器いぼの原因である6と11型を加えた4価ワクチンであるカーダシル、それに、さらに5つの高リスク群をカバーした9価のカーダシル9があります。

CDCは、11〜12歳の男女にHPVワクチンの2回接種 (少なくとも6か月の間隔をあける) を勧めています。

9歳以上27歳以下の男女であれば接種可能ですが、15歳以上は3回の接種が必要です。

また、カーダシル9は45歳までの男女での接種が可能です。

ただし、HPVワクチンは、すでに感染しているHPV感染症、性器いぼ、前がん状態、がんには効果はありません。

4価と9価のワクチンは200ある型の4ないし9つの型だけをカバーするので、すべての性器のがんや性器いぼを予防できるわけではないのですが、子宮頸がんの8〜9割、性器いぼの約9割は予防可能と考えられています。

予防接種をした後も、定期的な子宮頚がんの検査は必要です。

アメリカでは2006年のHPVワクチン接種開始以降、子宮頸がんなどの発生が年々低下してきています。

日本では、HPVワクチンによる「副作用」が随分問題になりましたが、数年前に名古屋市で行われた大規模な疫学調査で、HPVワクチンと報告されていた「副作用」との間に因果関係がないことが証明されています。

WHOもHPVワクチンの安全性を宣言しています。

日本では、HPVワクチンを受けないことによる子宮頸がんの増加 (HPVワクチンを広く行っている国は低下傾向あり) が今後問題になっていくのではないでしょうか。

 
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(2020年8月1日号掲載)