9/9/2025カリフォルニア州で希少かつ致死性の寄生虫病「シャーガス病 (Chagas disease)」の拡大が確認され、専門家らは「米国でもすでに風土病として定着している」と警鐘を鳴らしている。全米で推定30万人が感染しているとみられるが、多くは未診断のまま潜伏し、心臓発作や脳卒中で突然発覚することもある。
▪️感染源となるキスバグ
シャーガス病は寄生虫クルーズ・トリパノソーマ (Trypanosoma cruzi) によって引き起こされ、吸血性のサシガメ類「キスバグ (kissing bugs)」が媒介する。虫は吸血後に皮膚近くで排泄し、その糞便に含まれる寄生虫が目や口、傷口などから侵入して感染する。就寝間に痒 (かゆ) みで掻きむしることが感染を助長する。
米疾病対策センター (CDC) によれば、米国内には十数種のキスバグが存在し、そのうちカリフォルニアで確認された4種が寄生虫を保有している。州衛生局の調査 (2013〜23年) では、採取された226匹のうち約28%が寄生虫陽性だった。ロサンゼルスのグリフィスパークでは3匹に1匹が感染している例もあり、分布は広範囲に及んでいる。
▪️感染者数と報告の遅れ
カリフォルニア州で確認された人間の症例40件のうち、多くは海外渡航歴と関連があるが、約4分の1は国内感染の可能性が排除できなかった。標準化された報告制度や監視体制が欠けており、実際の感染状況は把握困難だという。診断は血液提供時に偶然見つかることも多い。最近では、国外渡航歴のないハリウッドヒルズの子どもが感染した例もあり、都市部の裕福な地域でもリスクがあることが明らかになった。
▪️症状と危険性
初期症状は発熱、倦怠感、発疹、瞼 (まぶた) の腫れ、食欲不振、吐き気や下痢など風邪に似たものが多い。しかし10〜20年潜伏した後、慢性期に入ると不整脈、心不全、突然死、嚥下困難や便秘など深刻な症状を引き起こす。治療薬は存在するが、初期段階での投与に限り有効で、慢性期に入ると進行抑制が主目的となる。犬も感染しやすく、若齢犬では急性症状、成犬では心不全に至るケースも報告されている。
▪️研究者の警告
テキサスA&M大学などの研究者グループはCDC学術誌に論文を発表し、米国におけるシャーガス病の風土病化を正式に認め、監視・研究・公衆衛生対応を強化すべきだと訴えた。昆虫学者ガブリエル・ヘイマー博士は「米国では熱帯病と過小評価され、医学教育や獣医学教育で軽視されてきた。だが、媒介虫も寄生虫も患者もここに存在する」と指摘する。
シャーガス病はラテンアメリカでは毎年マラリア以上の死者を出す。米国でも「他人事」ではなく、医師や獣医師が正しく理解し診断できる体制の整備が急務とされる。
*写真:カリフォルニア州公衆衛生局 (CDPH)