感覚統合訓練(2018.5.16)

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    美甘 章子

臨床心理医。医療や教育現場て幅広く臨床経験を積み、みなと学園コンサルタントも務めた。

エグゼクティブ・コーチング、スポーツ心理、精神科薬相談、心理療法、精神鑑定、教育心理アセスメント、発達障害相談など日・欧・北中南米などグローバルに従事。

「8時15分 ヒロシマで生きぬいて許す心」著者。

平和教育団体San Diego-WISH代表。


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感覚統合訓練

       
       

感覚の個人差

近視や遠視または難聴など、視覚と聴覚の個人差は一般の人にもわかりやすいですし、目鏡などの対処法も比較的手近にあります。

ですが、味覚、触覚、嗅覚などの個人差から好き嫌いが激しい子や、シャツやセーターなどが気持ち悪くて頑なに嫌がったりイライラする子や、一見何も起こっていないのに、他の人が気にしない匂いに敏感に反応する大人など、感覚の個人差は色々あります。

その他には、気圧に気分や体調がひどく左右されたり、天気や日照時間の長さで気分が大きく変わる人もいますし、明るい場所を眩しいと感じて物事に集中できなかったり、周囲は気にならない種類の音が異様に気になって落ち着かない人もいます。

このような、過敏性や強い反応性がある場合、親や教師や周りの人達には、ただの「わがまま」や「気難しさ」や「我慢の足りなさ」「変わった人」と解釈されることが多いのです。

 

 

神経発達障害における感覚の個人差

日本でいわゆる「発達障害」と呼ばれる、神経発達障害に含まれる注意欠如・多動症、学習障害、自閉症スペクトラム障害、知的障害、コミュニケーション障害などをもつ子供や大人には、このような感覚の個人差が著しくある場合が多く見受けられます。

このような子どもや大人は、言葉で自分の経験を他者にわかるように説明するのはもともと苦手な場合が多く、自身でも何が心地悪いのかよくわからないため、癇癪(かんしゃく)を起こしたり、他の子供や大人に当たったり、学校や仕事の課題などに集中できずにいることがあるのです。

神経発達障害がなくても同様な例があります。

 

 

感覚統合訓練とは

アメリカの特殊教育では、上記のような神経発達障害、肢体不自由、情緒障害などのために、通常の教育方法では十分な教育が受けられないと判断され、所定の基準に該当した場合は、個別指導計画(IEP)をたて、その児童・生徒・学生にあったような教育方法やサポートサービスが行われます。

本人がより習得しやすいような学習方法を訓練するとともに、必要であれば言語療法、適応体育、行動療法、感覚統合訓練などが個別指導計画に含まれます。

感覚統合訓練は、州の免許を持つ作業療法士(Occupational Therapist)の専門領域です。

アメリカの作業療法はかなり専門化されており、日本のようにフィジカルトレーニングによるリハビリなどはほとんどしません。

「作業」療法とは作業ができるようにする療法ではありませんし、職業訓練でもありません。

また、作業をすることによって気分の安定などを目指す療法はアクティビティー・セラピーと呼ばれ、異なる領域です。

本人が少しでも落ち着いたり、集中したり、快適であれるように、 著しい個人差がある感覚領域については(医療従事者の担当範囲は除く)、詳細な検査を行い、個人のニーズにあった統合訓練計画を立て実行します。

これを病院や個人開業で行なっている作業療法士もいます。

 

 

感覚統合訓練の例

例えば、授業中消しゴムをゴロゴロさせていると、日本では「手悪さ」と注意されますが、手を動かして感覚刺激を得ていた方がより課題や話に集中できる人もいるのです。

その様な場合は、ゴムボール、ゴム輪、ウニボールなどをワザと握ったり引っ張ったり膝の上で転がしたりする様指示します。

また、触覚刺激が体全体にあることにより落ち着ける子の場合は、大きな桶の様なプラスチック容器に硬い豆等を入れておいて、その中に入ってゴロゴロする様指導すると、数分で落ち着ける様になります。

その他には、羽やブラシで腕や脚を撫でたり軽く擦ったり、適度な重みの小さなバックパックを背負ったり、波の音や落ち着く音色の音楽をヘッドホーンで流しながらブランコで揺れたり、伸縮性の強い全身レオタード を着たり脱いだり、同様の繊維でできているトンネルをくぐらせたり、その子が落ち着ける方法を色々見出して行きます。

 

 

周囲の理解とサポート

協調性が美徳とされる文化では、皆と同じ様にすることを要求され、個人差は悪いことの様に扱われてしまいます。

が、今回説明した様な個人差は、わがままなどではなく、持って生まれた特性ですから、それを叱ったり非難したりするより、十分理解した上でその子がより環境に適応できるような工夫をしてあげるべきです。

大人の場合は、自己の個人差を理解し対処法を身につけ、周りへの理解とサポートをうまくお願いできるようになることが理想的です。

 

 
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「心の健康ノート」シリーズでは、主な心の病気やストレスの表れ方、心理療法、精神科薬、人との接し方、家族関係、職場でのメンタルヘルス等について、心と体の健康のために、ぜひ皆さんに正しく理解して頂きたいことを紹介していきたいと思います。
 
 
(2018年5月16日号掲載)