ボブ・ディラン氏にノーベル文学賞、「新たな詩的表現創造」
歌手で初の受賞、米作家「画期的」 と称賛、メディアは疑問の声も
2016年10月14日
© Steve Lagreca |
2016年ノーベル文学賞がシンガー・ソングライター、ボブ・ディラン氏 (75) に授与されることが決まった10月13日、米人作家らからも初となる歌手への授与を「画期的」と歓迎する声が上がり、オバマ大統領も祝福した。
一方メディアには、文学賞は小説家や詩人に与えられるべきだとして、授与に強く疑問を投げ掛ける意見も目立ち、賛否が入り乱れた。
米公共ラジオ (NPR) は「米音楽界の巨人が受賞」との好意的な見出しで報道。
シカゴ・トリビューン紙は、1990年代からディラン氏の受賞の可能性を指摘してきたコラムニストの記事を電子版に再掲し、「授与は遅すぎた」と報じた。
一方、NPRは「書籍ではなく、ステージでキャリアを築いた」人物への授与は「衝撃だ」と指摘。
ニューヨーク・タイムズ紙 (電子版) は「歌詞は詩や小説と同等の芸術的価値を持つのか。
(スウェーデン・アカデミーは) 論争を巻き起こした」と分析した。
同紙はさらにオピニオン面で「世界的に読書人口が減りつつある中、各種文学賞の重要性は増している」として、既に歌手として知名度が高いディラン氏への文学賞授与は「残念な決定だ」 と明確に批判する論説委員の署名記事を掲載した。
ディラン氏は1941年、ミネソタ州ダルースでユダヤ系移民の家庭に生まれた。
ミネソタ大在学中からフォークソングを歌い、大学中退後にニューヨークに移った。
1962年にデビューしたディラン氏は、公民権運動やベトナム戦争で揺れる米国で、戦争や人種差別に反対するメッセージ性の強い「プロテストソング」 (抗議の歌) を次々と発表。
若者の絶大な支持を得て、米国社会に大きな影響を与えた。
独特のしわがれ声でギターをかき鳴らし、フォークやロック、カントリーの要素を取り入れた独自の音楽世界を創造した。
日本でも 「フォークの神様」と呼ばれ、多くの歌手に影響を与えた。
作品はアルバム「フリーホイーリン・ボブ・ディラン」 (1963) 収録の「風に吹かれて」や「戦争の親玉」などのプロテストソングのほか、殺人事件で容疑者として逮捕された黒人ボクサーの無実の主張を支持して歌った「ハリケーン」など多数。
「天国への扉」 (1973) は多くの歌手にカバーされた。
2001年に映画『ワンダー・ボーイズ』の主題歌「シングス・ハヴ・チェンジド」 でアカデミー賞を受賞。
2008年にはポピュラー音楽と米国文化への貢献が評価され、ピュリツァー賞で特別表彰。
2012年には米国の文民最高位の勲章「大統領自由勲章」 を受けた。
文学賞の賞金は800万クローナ (約9400万円)。
授賞式は12月10日にストックホルムで行われる。
(2016年11月1日号掲載)