Thursday, 28 March 2024

必ず押さえておきたい 2012年米国確定申告の注意点 (2013.4.1)

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nagano_face.jpg   永野 文久

米国公認会計士

昭和17 年生まれ。  昭和41 年東京大学卒。同年三和銀行入社。
昭和58 年米国公認会計士。

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必ず押さえておきたい2012年米国確定申告の注意点

 

2012年の確定申告シーズンが到来しました。

米国では至る所で Tax Return のソフトウェアや、確定申告書作成サービスの宣伝が見られます。

近年のソフトウェアの充実や、電子申告といったテクノロジーによって、申告書作成が誰にでも簡単にできる時代となりました。

一方、米国外の資産や取引の開示については、年々厳しくなっている現状があります。

そこで今回は、2012年7月に連邦控訴裁判所より判決が出された 「U.S. v. Williams」のケースから、確定申告書に署名するということの重要さと、特に注意を要する開示義務について説明したいと思います。

 

U.S. v. Williamsの判例

米国外金融資産報告書であるTD F 90-22.1, Report of Foreign Bank and Financial Accounts (FBAR)の未提出 (1993-2000) によって、税務当局から意図的 (Willful) な違反として、多額のペナルティが科されたケース。

報告義務違反が意図的か否か —— が争点となり、裁判が行われていました。

連邦控訴裁判所は、意図的ではないとの結論を出した連邦地方裁判所の判決を覆し、報告を怠ったのは意図的であったと結論づけました。

 

特に注意が必要な申告書フォーム

A. Form 1040 Schedule B

Schedule Bは利息、配当収入を報告する比較的馴染みの深いフォームです。

このSchedule B 下段に3つの小さなYes/No の質問があることをご存知でしょうか。

最初の質問は「あなたは米国外に金融資産をお持ちですか?」 となっています。

前述のWilliams のケースでは、Schedule B のこの質問に対して「No」にチェックマークを入れ、申告書に署名して提出していたという事実が、結果的に意図的な違反とされる大きな根拠となり、申告書上のただ1つのチェックマークが明暗を分けることになりました。

 

B. TD F 90-22.1, Report of Foreign Bank and Financial Accounts (FBAR)

米国外にある金融資産を報告するフォームで、合計残高が$10,000を超える場合は、IRSに対する確定申告とは別に米国財務省まで毎年6月30日までに申告します。

提出の延長は認められていません。

これを怠ると、ペナルティは意図的な違反でない場合で最大$10,000、意図的な違反の場合は、残高の50%のペナルティや刑法上の罰則にも発展する可能性があります。

前述の Williams のケースでは、意図的な報告義務違反と判断され、多額のCivil Penaltyとなりました。

 

その他、違反のペナルティが大きい申告フォーム

C. Form 8938, Statement of Specified Foreign Financial Assets (FACTA)

2011年の申告書から適用されたフォームで、TD F 90-22.1と同じく米国外金融資産を報告しますが、こちらは確定申告書に添付が必要となります。

申告が必要な残高は、米国でのファイリングステータスと米国に居住しているかなどによって異なります。

Form 8938を申告書の期限 (延長を含む) までに提出しない場合、そのペナルティは最大$60,000となっており、刑法上の罰則にも発展する可能性もあります。

 

D. Form 5471

米国外の会社の株式を10%以上持つ場合、Form 5471を確定申告書に添付し、その会社の情報を開示する必要があります。

この報告を申告書の期限 (延長申請を含む) までに提出しない場合、そのペナルティは$10,000/件 となっています。

 

E. Form 8621

米国外の Mutual Fund (投資信託) に投資している場合などで、投資先が PFIC (Passive Foreign Investment Company) に該当する時は、Form 8621を確定申告書に添付し、当該投資を報告します。

金額的なPenalty はありませんが、例え小額な投資でも未報告がある場合は、確定申告書全体の時効が成立しなくなる点に注意が必要です。

 

F. Form 3520

米国非居住者から一定額以上の財産の贈与、相続を受けた場合、Form 3520 にて報告義務が生じます。

この報告を所得税または相続税の申告期限 (延長を含む) までに確定申告書とは別に指定されたIRSセンターに提出しない場合、そのペナルティは$10,000 または、贈与、相続額の5%のいずれか大きい方となっています。

 

G. Form 926

米国外の企業に出資 (現金出資、現物出資含む) や資産の移転を行った場合、Form 926 を確定申告書に添付して提出する必要があります。

外国法人への出資につき、Form 926 を用いて報告しなかった場合には、出資額 (もしくは現物出資された資産の市場価格) の最大10%がペナルティーとして科せられます。

申告書の署名の意味  前述の Williams の判例にもあるように、確定申告書に署名をするということは、上記の開示義務や申告内容について、すべてを把握し、内容について正しいと宣誓をしていることに他なりません。

Form 1040 の署名欄の文章の意味をよく理解した上で、慎重に申告書に署名をしなければなりません。  

 

最後に、市販のソフトウェアの利用や申告書の作成を依頼する場合でも、こういった報告義務と、違反した場合のペナルティを理解して確定申告を行うことが望まれます。

申告書に署名している以上、申告内容について「知らなかった」あるいは「よく見ていなかった」は、上述したWilliams のケースから通用しないことは明らかです。

国際税務が関連する開示義務に不安がある場合は、専門家に相談することをお勧めします。

 


※注意:このコラムは米国での税務に関する一般論的概説ですので、実際の案件については個別に専門家の意見を求められるようにお願いします。
 
(2013年4月1日号掲載)

 

 

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