深部静脈血栓症 Deep Vein Thrombosis = DVT(2018.2.1)

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dr kim new     金 一東

日本クリニック・サンディエゴ院長

日本クリニック医師。
神戸出身。岡山大学医学部卒業。同大学院を経て、横須賀米海軍病院、宇治徳洲会等を通じ日米プライマリケアを経験。
その後渡米し、コロンビア大学公衆衛生大学院を経て、エール大学関連病院で、内科・小児科合併研修を終了。スクリップス・クリニックに勤務の後、現職に。内科・小児科両専門医。


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深部静脈血栓症 

Deep Vein Thrombosis = DVT

       
       

深部静脈血栓症=DVTは、エコノミークラス症候群という名で有名になった肺塞栓症の原因になる病気です。

長時間、飛行機のエコノミークラスに座って下肢を動かさないと、下肢に血の塊=かたまり=(血栓) ができ、それで肺塞栓症になるということなのですが、これは飛行機のエコノミークラスに限られたことではなく、どんな状態でも下肢をあまり動かさないとDVT、そして肺塞栓症になる可能性があるのです。

静脈にできる血栓には、皮膚表面に近い静脈にできる表在性静脈炎と、深部の静脈にできる深部血栓症があります。

表在性静脈炎は重度の合併症を起こすことはほとんどありませんが、下肢深部静脈にできる深部血栓症は肺塞栓症の原因となり、命に関わることがあります。

DVTのほとんどは、下肢のふくらはぎか大腿の深部静脈にできます。

 

 

DVTの原因

DVTの一番の原因は、長時間にわたり、体、特に下肢を動かさないということです。

例えば、自動車や飛行機での長時間の旅行、ベッドでの長期間の臥床、手術後、外傷、長時間の座位などです。

長時間下肢を動かさないと、静脈の血液の流れが悪くなって血栓を形成しやすくなります。

外傷や手術では、静脈に傷がつき、血栓ができやすくなります。

他の原因としては、先天的・後天的に血液が固まりやすい病気があります。

DVTを起こしやすいリスクとしては、高齢 (60歳以上)、脱水、肥満、脳梗塞、全身麻痺、慢性心疾患、高血圧、悪性腫瘍、クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸炎、喫煙、避妊ピルやホルモン補充療法などの薬物療法、抗がん薬の使用、妊娠などがあります。

妊娠すると骨盤腔内や下肢の静脈を圧迫し、血栓ができやすくなるのです。

 

 

DVTの症状

下肢DVTの症状としては、下肢の腫れ、痛み (特にふくらはぎの痛み)、皮膚の色の変化、DVTを起こしている下肢の熱感などです。

血栓が小さい場合は症状のないこともあります。

あるいは、肺塞栓症を起こすまでDVTの存在を知らない場合もあります。

肺塞栓症を生じると、突然の呼吸苦、胸痛、咳、喀血、頻脈 (脈が速い)、ふらふら感、発汗などの症状が出ます。

 

 

DVTの合併症

DVTの合併症としては、肺塞栓症と血栓後症候群 (静脈炎後症候群) があります。

肺塞栓症は、前述したように呼吸苦や胸痛を起こす病気で、下肢にできた血栓がはがれて心臓まで運ばれ、右心室・右心房を経過し、肺動脈に入り、血管を詰まらせてしまうことによって生じます。

治療を速やかに行わないと死に至ることがあります。

血栓後症候群は、深部静脈に血栓ができて静脈の血流が低下することによっていろいろな症状が生じるのです。

下肢のむくみ (浮腫)、下肢の痛み、皮膚の変色、皮膚の潰瘍などです。

 

 

DVTの検査

問診と診察でDVTを疑うと、まず血液検査でDダイマー (D-dimer) を調べることと、下肢の超音波検査 (デュプレックス超音波検査) を行います。

Dダイマーは血管内に血栓ができると値が高くなりますが、それ以外の原因でも値が高くなるので、これだけでDVTを診断することはできません。

ただ、Dダイマーの値が正常の場合、極めて高い確率で血管内の血栓形成、すなわちDVTや肺塞栓症を否定できるのです

下肢超音波検査では下肢の深部静脈の血栓の有無を直接調べることができます。

それでも診断がつかない時は、下肢静脈の血管造影が行われることがあります。

これは、造影剤を注射し、レントゲンで静脈内の血栓の有無を診断するのです。

肺塞栓症を起こしている場合は 胸部のCT、CTによる肺動脈造影、肺シンチグラム (VQ scan) という少量の放射性物質を用いた画像診断、肺動脈血管造影などが行われることがあります。

 

 

 

DVTの治療

DVTの治療の目的は、血栓が大きくならないようにすることと、はがれた血栓が肺に運ばれて肺塞栓症を起こさないようにすることです。

治療は抗凝固療法で行われます。これは血液を固まりにくくする薬物 (血液をさらさらにする薬) を利用して、すでにある血栓が大きくなるのを防ぐのと同時に、他の部位に血栓ができないようにする目的で使われます。

血栓自体は時間がかかりますが、自然に吸収されていきます。

抗凝固療法に使われる薬には経口薬と注射薬がありますが、経口薬は効果が出るのに数日かかるので、治療は経口薬と注射薬を同時に始めます。そして、経口薬の効果が現れた時点で注射薬を中止します。

注射で使われるのは主にヘパリンですが、それ以外に低分子ヘパリンに分類されるエノキサパリン (商品名:Lovenox) とダルテパリン (Fragmin)、それ以外のフォンダパリヌックス (Arixtra) などがあります。

経口の抗凝固薬としては、ワ−ファリン (Coumadin)、ダビガトラン (Pradaxa)、エドキサバン (Savaysa) があります。

経口の抗凝固薬の中には効果の発現が早く、注射の抗凝固剤が要らないものもあります。

リバロキサバン (Xarelto) やアピキサバン (Eliquis) などです。

経口の抗凝固薬の服用期間は、リスクの有無により最低3か月ですが、血栓が下肢の末端側で症状が軽度の場合は抗凝固薬の服用は必要なく、その代わり2週間、何回かの下肢超音波検査でのモニターを行います。

すでにDVTになったことがある人や、リスクが存在しない人は3か月以上服用します。

経口薬ではワーファリン (商品名:Coumadin クマディン) が今でもよく使われます。

ワーファリンを使用する場合は、定期的に血液検査をして、国際感度指数INRが2.0から3.0になるように量を調整します。

ワーファリンはビタミンKがあると効果が弱まるので、ビタミンKの多く含まれている納豆、クロレラは食べないようにし、濃緑野菜も食べ過ぎないようにします。

また、ワーファリンの副作用による体内からの出血は致死的になることがあるので、定期的なモニターは非常に重要です。

抗凝固薬を服用し始めたら食事に注意し、出血の副作用に注意を払う必要があります。

外傷を受けやすい運動や活動は控えるのが必要かもしれません。

血栓溶解療法は血栓を溶解する治療法ですが、出血の副作用があるので、命に関わる重症の場合にのみ行われます。

重度のDVTや肺塞栓症のある場合、あるいは他の薬剤が効果のない場合、血栓溶解剤が使われることがあります。

他の治療としては、下大静脈フィルターの留置があります。

これは下肢にできた血栓が肺まで行かないようにブロックするのです。抗凝固薬を服用できない人が対象になります。

弾性ストッキングの着用はDVTによる下肢のむくみを防ぎます。

また、下肢に血液が溜まり血栓になるのを防ぎます。

 

 

DVTの予防

長時間座ったり旅行するときは、下腿をよく動かし、飛行機の中では1〜2時間毎に歩いたり、足の運動をします。

長距離ドライブの時も1〜2時間毎に休憩し、足を動かします。

手術や病気での長期間の臥床後は、なるべく早期にベッドから離れ、動くようにします。

手術の後は医師の指示に従って、血栓予防のための薬を服用しましょう。

また、水分を十分取って脱水しないようにします。肥満の人は減量し、喫煙している場合は禁煙を、そして運動を普段から行いましょう。

弾性ストッキングの着用もDVTの予防になります。

 

 

 
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(2018年2月1日号掲載)