金 一東
日本クリニック・サンディエゴ院長 |
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気胸 Pneumothorax |
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気胸とは読んで字のごとく、胸に気体が入った状態のことですが、この場合の胸とは胸腔のことで、気体とは空気のことです。 胸の構造 胸の外側は胸壁と呼ばれ、皮膚、筋肉、骨などでできた外郭をなし、その内部は胸腔と呼ばれる空間になっています。 ここに肺、心臓、気管支、食道、血管などが存在しています。 胸壁の内側は胸膜という膜で覆われています。 肺の外側も同様に胸膜で覆われています。 この胸壁側の胸膜 (壁側胸膜) と肺の胸膜 (臓側胸膜) の間である胸膜腔には潤滑液が存在しています。 肺は胸腔内では膨張しています。 これは、気道内の気力が胸腔内の気圧より常に高いからです。
気胸のメカニズム 気胸は、肺に穴があいて、気道の空気が胸腔内に洩 (も) れるか、胸壁の外から穴があいて空気が胸腔内に入ることによって、胸腔内の気圧が気道の気圧よりも高くなって、肺がしぼむ (虚脱する) ことなのですが、この洩れた空気は、壁側胸膜と臓側胸膜の間に入って、肺を胸壁より解離させてしまうのです。
気胸の原因 気胸は原因によって自然気胸と外傷性気胸に区別され、自然気胸はさらに原発性と続発性に分かれます。 原発性自然気胸は肺の疾患がなく原因不明の気胸で、続発性自然気胸は慢性閉塞性肺疾患 (COPD)、喘息 (ぜんそく)、結核、サルコイドーシス、原発性肺線維症などの肺疾患の合併症として起こる気胸です。 原発性自然気胸は10歳から30歳までの細身・長身の男性に多く発生するのですが、女性や高齢者にも起こります。 喫煙者は非喫煙者に比べてリスクが非常に高くなります。 例えば、1日10本たばこを吸う男性は非喫煙男性に比べて20倍、20本吸う人はリスクが100倍にも上昇します。 原発性自然気胸の原因は、肺にブレブという小さな肺のう胞 (肺胸膜直下に存在する直径1cm程度の異常気腔で、破裂しやすい) の破裂が原因ではないかと考えられています。 続発性自然気胸の場合、基礎疾患である肺の病気によって、やはりブラ (ブレブよりも大きく、肺胞から形成される) などが形成され、それが何らかの理由で破れ、胸腔内に空気が洩れるのではないかと考えられています。 外傷性気胸は、ナイフで刺されたり、ピストルで撃たれた時など、貫通性の外傷だけではなく、交通事故などでの鈍的な外傷でも起こります。 最も一般的な外傷性気胸は、骨折した肋骨の先端が肺を損傷させて起こるものです。 また、中心静脈カテーテルを挿入する過程や、生検をする時などの医療処置の合併症や、人工呼吸器による合併症で起こることもあります。 また、スキューバーダイビングで起こることもあります。 胸壁に開いた穴が弁のように働き、胸壁外から胸腔内へと一方向だけ空気が入ると、胸壁内に継続的に空気が入ってくる緊張性気胸という状態になります。 この状態になると肺、心臓、血管が圧迫され、ショック状態、呼吸不全、意識障害など重篤な結果になるので、救急処置が必要となります。
気胸の症状 突然の胸痛、呼吸苦、乾いた咳、動悸、頻脈などですが、原発性自然気胸での症状は一般的に軽く、続発性自然気胸は症状がより重く、胸痛や呼吸苦以外に、チアノーゼ、精神的混乱、意識障害を起こすことがあります。 緊張性気胸では不整脈、血圧低下、ショック状態、呼吸困難などを起こします。
気胸の診断 気胸の診断は、気胸の程度が軽い場合は診察だけでは困難です。 胸部X線による評価が必要になりますが、小さな気胸は胸部X線でも見逃すことがあります。 通常、胸部X線を撮るときは大きく息を吸い込みますが、気胸を疑う時は逆に息を吐いて撮影します。 大きく息を吐いて撮影すると、肺の虚脱が増強し、診断が容易になるのです。 胸部CTでは気胸のより正確な評価ができるだけでなく、原因になった肺疾患の評価や外傷の評価もできます。 胸部超音波は外傷の時に緊急に気胸の評価ができるので有用です。
気胸の治療 気胸の治療は、気胸のサイズ、原因、種類、症状の程度などを考慮して決められます。 治療の目的は、虚脱した肺にかかる気圧を弱め、肺が再膨張するのを助ける、そして再発を予防するということです。
<経過観察> 小さな自然気胸で合併症のない場合は、自然に治癒することが期待できるので経過観察を行います。 完治するまで何度か胸部X線を撮って比べます。通常は1〜2週間で完治しますが、酸素吸入すると完治までの時間が短縮できます。
<穿刺 (せんし) 脱気法> 原発性自然気胸で大きい気胸の場合、針による脱気を試みます。 針を注入して注射器で脱気します。 続発性の自然気胸でも、中程度以下の虚脱や呼吸症状のない場合もこの方法が適応できます。 ただ、その場合、入院して経過を見る必要があります。
<チェストチューブ挿入> 大きな気胸、特に続発性自然気胸、それに外傷性気胸の場合、チェストチューブという管を胸腔内に挿入して持続脱気をします。 チューブは空気を胸腔内から外に出す一方通行になっています。 このチューブの端は水の入った装置やハイムリッヒ弁になった装置に接続しています。 陰圧で持続吸引して、急速に虚脱した肺を膨張させると肺水腫を起こす危険性があるので、最初は陰圧で吸引するのを避けます。 ただし、2〜4日経過しても空気の洩れがある場合は、陰圧で持続吸引します。 気胸で人工呼吸を使用している場合も、その後遺症で緊張性気胸が起こる可能性があるので、チェストチューブは必須です。 外傷で胸壁に穴が開いている場合は、穴を塞ぐような処置をします。 緊張性気胸の場合は、緊急に針を刺して脱気をまず行い、その後にチェストチューブを挿入します。
<胸膜癒着術> 胸膜癒着術は、胸膜腔すなわち、壁側胸膜と臓側胸膜を恒久的に癒着させる方法ですが、胸膜を剥離 (はくり) させて行う方法と、薬物を胸膜間に入れる方法があります。 薬物の注入には、VATSという胸腔鏡を挿入して行う方法とチェストチューブから注入する方法があります。 タルク、テトラサイクリン、ミノサイクリン、ドキシサイクリンなどの薬物が使用されます。
<手術> まれに破裂部分が大きい場合や多発する場合は手術の対象になります。 開胸手術で行う場合とVATSで行う場合がありますが、後者の方が侵襲性も後遺症も少なく入院期間も短いのですが、再発率は少し高くなります。 よく行われる手術は破けたブレブなどを縫い合わせる手術です。
治療後 気胸治療後の活動や仕事への復帰は、気胸の程度、種類、治療内容によって異なってきます。 自然気胸で軽労働の場合は最大1週間、また、重労働の場合は1かから2か月ほど労働を避けます。 喫煙者で気胸のあった人には禁煙を勧めます。 気胸後の飛行機の利用は、気胸が完全に治癒して1週間くらいは避けましょう。 スキューバーダイビングは医師と相談してください。
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(2014年12月1日号掲載) |