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前々回の「腹痛」の補足版ですが、今回は、腹部の表面の痛みである腹壁痛について説明をします。腹部の痛みは、必ずしも腹部の中の臓器から来るとは限りません。腹部の表面を構成する皮膚や、皮下組織、筋肉、筋膜などから来る痛みもあるのです。
例えば、左下腹部痛がある場合、憩室炎、便秘、尿管結石、炎症性腸炎、過敏性大腸炎などの内科疾患や、子宮内膜症、卵巣嚢腫(のうしゅ)、骨盤炎症性疾患などの婦人科疾患が原因として考えられます。しかし、下痢、血便、嘔吐、熱、おりもの、膣出血など、腹痛以外の症状が全くなく、血液検査、腹部X線、超音波検査やCT検査でも異常が無い場合、前述の内科・婦人科疾患の可能性はずっと少なくなります。このような時、腹壁痛を考えるのです。
腹部内部からの痛み
前々回の「腹痛」でも説明したように、腹部内部から起こる痛みはいろいろな臓器が関与し、痛み以外にも様々な症状が出ます。例えば、吐き気や嘔吐、体重減少、下痢、便秘、血便、黄疸、発熱、食事や排便による痛みの変化などがあります。問診と診察、血液検査、超音波、CT、胃内視鏡、大腸ファイバーなどの検査をすると診断のつくことが多いのですが、腹壁痛は、このような検査をしても全然診断の手助けにならない場合が多いのです。但し、腹部内部からの痛みの除外診断にはなります。
腹壁痛の特徴
腹壁痛は身体の姿勢に関係のあることが多く、立位、座位、横臥位で痛みが変化することがあります。また通常、痛みは食事や便通に関係なく、腹部に力を入れると痛みが増強することが多いのが特徴です。痛みのある場所を指で押すと、特に痛みを感じるトリガーポイントという部位が存在することがあります。トリガーポイントの大きさはせいぜい指の先程度から大きくても10円玉くらいまでで、トリガーポイントを刺激すると痛みが広がります。そのトリガーポイントは、腹直筋のサイドに沿って存在することが多いのです。
以下、腹壁痛を起こす代表的な疾患について簡単に説明してみましょう。
・ヘルニア
大腸などの消化管や腹部内部の組織が腹壁の内部や腹壁を通過すると、ヘルニアという状態になります。腹部のヘルニアは、部位によって、そけいヘルニア、大腿ヘルニア、臍(さい)ヘルニア、スペゲリウスヘルニア(腹壁側ヘルニア)などに分類されます。これらヘルニアの種類によって痛みの起こる部位も様々です。腹部に力を入れると、腹部の一部が膨らんでくるとヘルニアの可能性が高くなりますが、必ずしも膨らみを発見できるとは限りません。
・肋骨すべり症候群 (Slipping rib syndrome)
特に、決まった日本語名はないようなので、肋骨すべり症候群と訳しましたが、ティーツェ病と同じだと考えている人もいます。但し、ティーツェ病は第2・第3肋骨など上部の肋骨肋軟骨に症状が出ますが、肋骨すべり症候群は、8-10番の肋骨肋軟骨に症状が出ます。この肋骨すべり症候群は、肋骨を胸骨につなぎ止めておく靱帯が弱くなって、本来ある場所から肋骨がすべり出してしまうという病気です。すべり出た肋骨は肋間神経を圧迫し、鋭い刺すような痛みを起こします。痛みの部位は前胸部から背中の中間部。原因は、炎症、前胸部の肋軟骨部の過可動性、下部肋軟骨部や腱への血流の低さ、慢性気管支炎などの咳、物理的原因(車の後部座席で寝て、胸部にドアのハンドルが当たっていた場合)。診察で、肋骨を全部に引っ張るようにすると痛みが増強したり、クリック音がすることがあります。
・帯状疱疹
子供の時に水疱瘡にかかると、水疱瘡のウィルスが体の神経節に隠れ、その後長い時間を経て、過労、病気あるいはストレスなど免疫力が低下するようなことがあると、ウィルスが神経節から皮膚に出てきて帯状に水ぶくれが発生します。水疱が皮膚に出てくる数日前から痛みが起こるので、帯状疱疹にかかって腹痛があっても、水疱が出てくるまで皮膚の病気だと気づかないことがあります。また、水疱が背中に出ると自分では水疱の存在がまったく分からないことがあります。
・外傷による腹壁痛
運動をする人は、腹部の筋肉や筋膜に損傷が起こるとそれが腹壁痛の原因になります。また、筋肉や筋膜に損傷がなくても、筋肉や筋膜の使いすぎによる痛みが出る可能性があります。
・圧迫による痛み
ベルトの締めすぎ、ゆとりのないズボン、ジーンズ、スカートなどの着用は腹壁痛の原因になります。特に、あまり運動をしないでお腹の出ている人はこの痛みのリスクが高くなります。筋肉が骨に付いている部分、例えば肋骨の下や胸骨の下にある剣状突起、あるいは腸骨そけい部は痛みが起こりやすい部位です。
・その他の原因
腹部手術による腹壁組織の瘢痕(はんこん)が痛みの原因になります。他に、腹壁での神経腫や血腫などの形成。糖尿病や血管炎のある人での多発性単神経炎(互いに関係のないいくつかの神経で炎症が起こる)。
診断と治療
先ず、腹部臓器による痛みがないことが前提になります。問診、診察で腹壁痛の可能性が高く疑われた場合、腹部の超音波やCTあるいは血液検査を行う前に簡単な身体テストで腹壁痛の診断をすることがありあます。診察台に寝て、両腕を診察台の下に垂らします。そして、頭を上げてへそのあたりを見るようにして腹壁に力を入れます。腹部の痛みが増えたり、変化がなければ陽性です(Camett徴候)。陽性の場合は腹壁痛の可能性が高くなるのです。このように、Camett徴候が陽性の場合や、様々な検査をして腹部内部痛の原因が追求できなかった場合、腹壁痛を考えてみます。
腹壁痛と腹部内部からの痛みを簡単に区別する方法は、トリガーポイントに痛み止めの注射を打つのです。この注射は局所麻酔薬とステロイドの組み合わせですが、打って数分以内に腹部の痛みが和らげば腹壁痛の可能性が高くなり、ステロイドによりその部分の炎症が徐々に改善していくので治療にもなります。すなわち、診断と治療を兼ねた方法なのです。
それ以外の腹壁痛の治療法としては、フェノールによる恒久的な治療がありますが、これはペイン治療の専門医によって行われます。鍼灸、マッサージ、理学療法、三環系の抗うつ薬服用なども治療のオプションになります。
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