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kanazawa_new.jpg     金澤 信二郎

東洋医学修士(MTOM)

全米及びカリフォルニア鍼灸師免許取得。日本における経路治療の第一人者である首藤傳明先生に師事。和漢薬学会員。北米東洋医学会々員。東京教育大(現・筑波大)哲学科卒。現在、カフォルニア州のリッジクレスト(Ridgecrest) で夫婦で鍼灸漢方に従事。

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マクロビオティックご存知ですか?
       
日本ではフランス語風に「マクロビオティック」と呼ばれますが、日本で始まった「食養生」、つまり食べ物による健康長寿法です。


久司道夫

マクロビオティックは日本では長くマイナーな存在でした。昔、ビートルズが東京を訪れた時、日本人が皆、白米と牛肉を有り難がる姿に愕(がく)然としたと いう話があります。その当時、ビートルズが探し出した新宿駅裏のマクロビオティックの食堂は、ずいぶん前に潰れています。それが最近では、マクロビオ ティックは日本の流行の先端だそうで、若者受けする雑誌さえ出版されていますから、時代は変わったものです。

アメリカのマクロビオティックは、東海岸ボストン近郊で久司道夫&エイヴリン夫妻が60年代に始めています。当時のベトナム反戦、ヒッピー運動、フラワー 族の波に乗り、マクロビオティックは「枯れ野の野火」のように広がりました。エイヴリンさんの名前ですが、横田生まれの日本女性です。米寿を越えた久司さ んは今でもお元気で、講演活動を続けられていますが、エイヴリンさんは6年前にガンでお亡くなりになりました。長女もガンで失っておられ、『ガンを予防す る食事』という夫婦共著を出版した方としては皮肉なめぐり合わせと思われます。

久司さんは太平洋戦争末期に、学生になる者がいなかった時代の東大に入学し、戦後直後に卒業、コロンビア大学留学もしています。ですが、60年代にアメリ カに彼を送り込んだのはジョージ・大沢こと桜沢如一でした。世界平和のための世界連邦建設を夢見る久司は「世界平和の元は食にある」とする大沢に共鳴した のです。

 

桜沢如一=ジョージ・大沢

青年期に肺と腸を結核にやられた桜沢は食養生で命を救われ、以来、食養運動に没頭し、ヨーロッパに運動を広めるために自ら渡仏。また、若者を各地に送り込 む運動を始めます。戦争末期に「近衛文麿首相は日本を滅ぼす」という内容の書を出して逮捕され、戦後は進駐軍に釈放されたものの、戦時中の欧米文化攻撃が 原因で「公職追放」処分を受けます。やがて、ジョージ大沢と名前を変えて再び渡仏し、欧米に若者を送り込む運動も再開します。

かくまで、大沢こと桜沢を駆り立てたのは「日本の食養生」が優れた理論であり、他の文化はこれを学ばな ければいけないという確信、盲信でしょう。その確信から、大沢はアルバート・シュバイツアー博士を宣教しようと夫婦でアフリカまで押しかけています。まる でドン・キホーテと称するのは言い過ぎでしょうか。彼がかくも信奉した「日本の食養生」は、実は戦前の「反欧米、反西洋文明、反西洋科学」思想の末端に咲 いていました。この「食養」を「マクロビオテイーク(最長生命のこと)」と訳したのは“手八丁口八丁”と評判の大沢でした。

 

石塚左玄

大沢が「命を救われた食養生」とは、実は明治時代に陸軍の薬剤監をしていた石塚左玄が始めた食養会の理論と運動のことです。石塚は西洋料理が普及して肉食 が一般化する風潮に危機感を覚え、玄米主食の粗食こそ「日本人に合った食事」であるとし、それを「化学的」に立証するという『化学的食養長寿論』 (1896)を発表しました。彼の「化学的な」論証とは、先ず人間の歯は臼歯(きゅうし)が多いから穀粒食に向いているとし、肉食には適さず、穀粒食主体 が「正食」であると三段論法的に結論づけるのです。次に、玄米はカリウムとナトリウムの比が5対1で、動物性食品(陽)と植物性食品(陰)の中間にあり、 陰陽の調和が取れている「化学的」理想食品であるとします。3番目に、食べ物は全体を食べるべきで、米なら玄米がよく、表皮を取り去るのは犯罪行為だとし ています。

この発想はさらに敷延され、人間は風土、気候、地理的条件に合った食べ物を食べるべきで、例えれば、肉とパンはヨーロッパの陰的な条件にあった食べ物で、陽的な条件下の日本人が真似して常食すべきではないと語り、「食は郷に入っては郷に従え」とします。

こうした石塚哲学をさらに普遍化したのが大沢であり、久司でした。食べ物の陰陽を規定し、「ナスは紫で最陰」として、ジャガイモ、トマトなどのナス族一般 も有毒として嫌い、自然薯(じねんじょ)を奨めるなど、私には昔の日本の食偏見をそのまま抱え込んでいるように思えるのです。玄米のカリウムとナトリウム の比は現在では250対2と訂正され、それが5対1である食材は驚くなかれ、和牛肉であることが分かっています。

(2007年5月16日号掲載)
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