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2008年6月14日
 
弱い人間が強くなる瞬間を
作家の薬丸岳さん

 
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「執筆の原点にあるのは、現実に起きている事件への怒りです」と話す作家の薬丸岳さん=東京・音羽の講談社
「悩みながら書きました。物語としては閉じましたが、僕の疑問を読者に投げ掛けることしかできなかった気がします」

2005年に江戸川乱歩賞でデビューした薬丸岳さんは、3作目の長編小説「虚夢」(講談社)で刑法39条をテーマに据えた。

精神障害などで責任能力のない「心神喪失者」の行為は罰せず、責任能力が減退している「心神耗弱者」の行為はその刑を減軽することを定めている法律だ。

「ニュースで心神喪失、心神耗弱という言葉を聞いても、よく分からなかった。この問題自体、タブー視されてきたように思う。でも問題を覆い隠すことで不安感や恐怖、精神障害者への偏見を助長している面もあるのではないでしょうか」

「虚夢」は通り魔殺人の描写で幕を開ける。

藤崎という男が子供や老人を刃物で次々に襲い、12人が死傷。

藤崎は起訴前の精神鑑定で統合失調症と診断され、「犯行時は心神喪失だった」として不起訴となる。

3歳の娘の命を奪われた三上は妻の佐和子と離婚、事件から4年たっても立ち直れず自暴自棄の生活を送っていた。

そんなある日、佐和子から電話がある。

「さっき藤崎とすれ違ったの」―。

薬丸さんは被害者遺族だけでなく、精神障害者や精神科医の視点からも事件を見つめた。

「39条についての考え方は立場によって違うと思う。基本的には被害者の側から物語を作ったが、その憎しみや憤りだけでは語り切れないものもある」

大きな喪失を経験した人が新たな一歩を踏み出すにはどうすればいいのか。

物語はやがて、三上と佐和子の再生へと焦点が移ってゆく。

「ごく普通の弱い人間が強くなる瞬間が書きたかった」

デビュー作「天使のナイフ」では少年犯罪と向き合って「真の更生とは何か」を問い、2作目「闇の底」では子供に対する性犯罪者の再犯問題を扱った。

重厚で複雑なテーマだけに不安もある。

「僕は事件の当事者ではないし、法律家や医者でもありません。だからこそ一作一作、真剣に取り組むしかありません」
 
(共同通信)
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